天寿を全うしてこの世を去る時、それが大切な人であっても、自分自身であっても、残される人も、旅立つ誰もが、これまでの人生が良かったものだと思えるように、笑顔でありたい。MinaWagaShi.の原点となるこの楽曲は、「さよなら」の瞬間に心から「ありがとう」と伝えたいという想いから生まれた、生と死の狭間にある感謝の祈りだ。
MinaWagaShi.の原点となるこの曲は、どのような問いから生まれましたか?
「さよなら」の瞬間に自分はどうありたいのか、という問いですね。誰もが必ず経験する、大切な人との別れ、あるいは自分の最期の瞬間。その時に「嫌だ」と泣くのではなく、「ありがとう」と笑顔で手を包みたい。そういう想いが、この曲の全ての源になっています。
活動を始めるにあたって、自分は何を表現したいのか、どうありたいのかを問い直した時に、この問いに辿り着いたんです。悲しみを否定するのではなく、その先にある感謝にたどり着きたい。小さな声かもしれませんが、そういう祈りを言葉にしたかった。この曲はMinaWagaShi.としての心臓部なんです。
「さよなら」の瞬間について、なぜこのテーマを選んだのですか?
人生を考える時に、最期の瞬間を想像することほど、現在を鮮明にするものはないと思うんです。終わりを意識することで、今この瞬間の価値が見えてくる。だから「さよなら」という最も深刻なテーマから出発することで、逆に、今生きていることの尊さが伝わるんじゃないかと思ったんです。
また、多くの人は悲しみや別れから目を背けがちです。でも、そこに目を向けた時に初めて見えてくる愛がある。大切な人を見送る時も、自分が旅立つ時も、歩んだ旅路がよかったと思える。そういう心の状態に辿り着きたいというのは、とても本質的な願いだと感じて。このテーマで表現したいと思いました。
悲しみではなく感謝に辿り着くという、その転換はどう生まれましたか?
悲しみを否定することなく、その感情を認めた先に感謝があるという構造を意識しました。「さよなら」は本来、悲しい言葉です。でも、その言葉が生まれるのは、そこに愛があるからなんです。泣きたくなるほど大切だから、別れが悲しいんです。だからその悲しみの中に、実は感謝が隠れているんだと思ったんです。
人生が良かったと思えるって、何もない人生じゃなくて、笑いもあれば泣きもあった、喜びも悔しさもあった、そういう濃い時間を過ごした人生ですよね。だから悲しみも含めた全部が、実はありがたいんだ。そういう転換を歌詞に表現することで、リスナーも「あ、そっか」って気づいてくれるといいなと思いました。
歌うたびに意味が変わるとのことですが、具体的にはどう変化していますか?
この曲を書いた時と、何か月も後に歌う時では、人生経験が増えているんです。新しい別れを経験したり、新しい出会いがあったり。そういう時間の積み重ねの中で、歌詞が新たな意味を持ち始めるんです。「さよなら」という言葉ひとつでも、その時々で、感じ方が違う。
また、このテーマは普遍的でありながら、個人的でもあるんです。聴き手によって、この曲が指す「さよなら」は全く異なるものになる。一人の友人との別れかもしれないし、古い自分との別れかもしれない。大切な人の最期かもしれないし、自分自身の死について考えることかもしれない。だからこの曲は、歌い手が変わるたびに、聴き手が変わるたびに、意味が変わっていく。その柔軟性が、この曲の強さだと思っています。
できるだけ飾らない言葉で綴ったとのことですが、シンプルであることの難しさは?
とても難しかったです。こういう深いテーマほど、言葉を飾りたくなってしまうんです。詩的に、美しく、という誘惑がある。でも、最期の瞬間に交わされる言葉って、実はすごくシンプルなんだと思うんです。「ありがとう」「好きだよ」「いってきます」——そういう何度も何度も使われた言葉だからこそ、重みがある。
だから、できるだけ日常の言葉を使うようにしました。装飾を削ぎ落として、素の想いが伝わるように。その過程で、何百回も書き直したんです。この言葉で本当にいいのか、もっとシンプルにできないか。シンプルであることは、実はすごく贅沢な表現なんだと気づかされました。
最初の楽曲として世に出したこの曲に、今改めて何を想いますか?
この曲がなければ、MinaWagaShi.は存在していなかったと思うんです。これは単なる最初の楽曲ではなくて、活動全体を支える根拠みたいなものなんです。だから今、他の曲を書く時も、必ずこの曲に立ち返ります。「自分は何を表現したいのか」「どうありたいのか」という問いに、この曲が常に答えてくれるんです。
また、時間が経って思うのは、この曲は完成していないということなんです。歌う度に、聴く度に、新たな意味が生まれ続けている。それは欠陥ではなくて、最高の特徴だと思っています。もし自分に悔いがなく、人生を「ありがとう」と締めくくれるなら、それはこの曲が世に出た意味が十分に果たされたことになる。そういう祈りを込めて、これからも歌い続けたいんです。