大切な人がいなくなった部屋。時計はゆっくりと刻み、時間だけが過ぎていく。壁は何かささやくようだけれど、言葉には決してならない。棚の埃に名前をなぞり、広すぎるベッドで長すぎる夜を過ごす。蝋燭を灯しても影は競い合わない。9th Digital Single「Empty Rooms」は、大切な人を失った時に残される空白の感覚を、あえてシンプルな音の繰り返しで表現した一曲だ。

Q.01

この楽曲で「空虚」を音で表現しようと思ったきっかけは?

喪失感って、言葉にしようとすると途端に嘘臭くなってしまうんです。だから最初は、言葉よりも音の質感で伝えたいと思いました。誰かが急にいなくなった時、その空白って、実は音でしか表現できないんじゃないかって。部屋に残された空気の質感とか、時計の音だけが聞こえる不気味さとか。

制作を進める中で、複雑な楽器編成よりも、むしろ音の「隙間」こそが喪失を表現できるんじゃないかって気づいたんです。だから敢えてシンプルに、そして繰り返すことで、その隙間に聴き手の心が入り込むような構成にしました。

Q.02

シンプルな構成の繰り返しにこだわった理由は?

空っぽの部屋に人がいないという状態って、その繰り返しなんです。毎日目覚めて、その人がいないことに気づく。その悔しさと絶望が何度も何度も押し寄せる。だから音も、同じモチーフの繰り返しにすることで、その「何度も押し寄せる喪失」を表現したかったんです。

複雑な構成だと、聴き手の心が音を追いかけることになる。でもシンプルな繰り返しなら、聴き手は逆に自分の心と向き合うことができます。音の向こう側にある「静寂」に気づくことができる。その静寂こそが、本当は一番大切な場所なんだと思います。

Q.03

「壁はささやくけれど何も語らない」という表現が印象的です。

その人が確かにそこにいたという痕跡が、部屋の壁に残されているんです。でも壁は証言者にはなれない。ただ空気を含んでいるだけで、言葉には決してならない。その葛藤が「ささやくけれど何も語らない」という表現になりました。

私たちって、欠けたものを求めるあまり、残されたものの意味を見失ってしまう。でも残されたものこそが、その人の存在の証かもしれない。部屋の壁が何も語らないのは、語る必要がないからだと思うんです。そこにただある、という事実だけで十分なのかもしれません。

“壁はささやく でも何も語らない”
Q.04

音の隙間に感情が宿るという信念について詳しく聞かせてください。

音楽って、実は「音」だけじゃなくて「音と音の間」で作られていると思うんです。演奏者がいかに完璧に音を出しても、その間に何もなかったら、それは単なる騒音なんですよ。でも間に何かがあるから、初めて「音楽」になる。

喪失の感情も同じで、言葉や音で直接的に表現されたものよりも、むしろ表現されていない部分に、本当の感情が眠っているんじゃないかって思うんです。この曲では、聴き手が自分の経験を投影できるような空白を意識的に用意しました。その空白に誰かの顔が浮かぶ、その時初めてこの曲は完成するんだと思います。

Q.05

この曲を聴く人にどんなことを感じてほしいですか?

大切な人を失った経験を持つ人に、この曲が「自分だけじゃないんだ」という気づきを与えたいです。あの重い静寂、言葉にならない悔しさ、それでも続く日常。そういう複雑な感覚を、この曲が許容してくれるような場所になってほしい。

そしてもう一つは、失われた時間も、残された痕跡も、全部が「その人との関係」なんだということを感じてほしい。部屋が空っぽでも、心が空っぽでも、何か微かに響き続けているものがあるんです。それはかつての愛の記憶かもしれない。この曲を聴いた時に、その声に耳を傾けてほしいと思います。

喪失 空虚 残響 記憶
Track Information

Empty Rooms

9th Digital Single · 2025.12.13

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