大切な家族の門出を見届ける一曲。ヴェールを纏い、誓いの鐘が鳴る中、祝福の裏側にある「行かないで」という本音。素直になれないまま、それでも「愛しているよ ずっと」と心は叫ぶ。3rd Digital Single「Nearly.」は、嬉しいはずなのに涙が止まらないその矛盾した感情をそのまま曲にした、もっとも個人的な楽曲のひとつです。
この曲のきっかけになった「実体験」について、聞いても良いですか?
大切な家族の門出に立ち会った時のことです。祝福したい気持ちと、失う不安が同時に押し寄せてきました。嬉しいはずなのに涙が止まらなくて、その矛盾した感情がずっと心に残っていたんです。何度も書き直しながら、その感情をどう曲に落とし込むかを考えました。
多くの祝いの歌は「おめでとう」で終わってしまいますが、この曲は違います。祝福すること、送り出すことの裏側には必ず「行かないで」という声がある。その本音を素直に歌いたかったんです。それがこの曲の最大の特徴だと思っています。
祝福と寂しさが矛盾する感情をどう楽曲に落とし込みましたか?
歌詞の構成で工夫しました。サビには「愛しているよ ずっと」という肯定的な宣言を置きながら、その前後には迷いや葛藤を配置する。表面的には祝いの言葉なんですが、その底流に流れているのは「離れたくない」という執着です。
音楽面でも、優雅なヴェールのイメージから始まるのに、やがてその優雅さの中に痛みが滲み出ていく。聴き手が心地よさを感じながらも、どこか悲しさを感じる、そんなバランスを大切にしました。祝福と寂しさは実は対立していなくて、同じ愛情の表裏一体なんだっていうメッセージを込めています。
「すぐ傍に。」という言葉を何度も繰り返す意図は?
物理的な距離は確実に離れるんです。でも心はいつもあなたの傍にある。その距離感を何度も反復することで、リスナーの心に刻み込みたかったんです。「すぐ傍に」という二文字の言葉が、実は最大の約束になっているんだと思います。
また、句読点を置かずに「すぐ傍に。」とピリオドで終わらせることで、それが完結した言葉ではなく、これからも続いていく宣言になるように工夫しました。繰り返すたびに、その言葉の重みが増していく。聴き手が何度聴いても、その度に新しい「傍にいる」という感覚を感じられたらいいなって思っています。
何度も書き直したとのことですが、どこが難しかったですか?
本当に難しかったのは「嘘にならないこと」です。祝福しながらも引き留めたいという感情は、極めて個人的で、ある種わがままな感情です。それを美しく、でも嘘なく表現することのバランスが難しかったんです。
何度も歌詞を変えては、「これは本当に自分の気持ちか」と問い直す。その過程で、やがて「祝福すること」と「傍にいること」が同時に成立する表現にたどり着きました。「送り出す」ことと「傍にいる」ことは、本来矛盾しない。その気づきが、この曲を完成させてくれたんだと思います。
ヴェールや鐘の音など、結婚式のイメージを用いた理由は?
結婚式というのは、祝いと別れが同時に起きる最高潮の瞬間です。ヴェールはその美しさと儚さを象徴していますし、鐘の音は喜びと同時に終わりも告げています。その両面性が完璧にこの曲の世界観を表現していたんです。
ただし、具体的な結婚式に限った話ではなく、すべての「門出」がこの美学を持っていると思っています。だから聴き手は、結婚でもなく、単なる引っ越しでも、新しい環境への移動でも、この曲を自分の人生に重ねることができるんです。ヴェールと鐘というイメージが、その普遍性を支えています。
この曲を届けたい人は誰ですか?
大切な人を見送る立場にいる、すべての人に届けたいです。子どもを送り出す親、卒業していく教え子を見守る先生、転勤する恋人を駅のホームで見送る人、地元を離れていく幼馴染、退職する同僚の背中を見つめる人──それから、もう会えないかもしれない誰かに「元気でね」と笑った経験がある人。立場は違っても、その共通の感情は「愛しているからこそ、手放せない」という矛盾です。その矛盾を抱えたまま、それでも前に進まなきゃいけない人たち。
そして同時に、送り出される側の人にも聴いてほしい。あなたが大切な人の心に「すぐ傍に」いるっていう事実を感じてもらいたいんです。距離が離れても、心の繋がりは絶対に失われない。その信念を、この曲の全てに込めました。